================================================================================ e-メンタルヘルス・マガジン 第52号 2010年 8月4日発行 ================================================================================ このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が編集する精神医学の現場からの 情報をお届け(精神医学;精神科、心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、 メンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かのシリーズで掲載していく予定で す。 今回からは「うつ病」についてのシリーズが始まります。 -------------------------------------------------------------------------------- うつ病 -第1回- 自殺者の増加とうつ病 -------------------------------------------------------------------------------- 今回から「うつ病」をテーマに話を進めていきたいと思います。 うつ病はもちろん、昔から精神科のもっとも大きな病気の一つだったわけですが、最近、特に大き な注目を集めています。 それは、自殺の問題です。 1998年以降に自殺者数は毎年3万人以上にのぼっており、これは交通事故による死亡者の3倍に あたります。交通事故は運転者、歩行者への啓発や自動車メーカー、警察など各方面の対策により 減少傾向にありますが(00年9066人→08年5155人)、自殺者は今のところ減る兆しがありません。 (00年31957人→08年32249人) 実際に、2009年のWHO(世界保健機関)の統計をみると、日本人の自殺率は人口10万人当たり 24.4人でベラルーシ、リトアニア、ロシア、カザフスタン、ハンガリーに次いで世界第6位となって います。G8に参加している主要国8カ国の中では2番目に自殺が多いのです。これはアメリカ (同11.0人)の2倍になり、イギリスやイタリヤ(同6.5人)に比べると実に4倍弱になります。 これから考えても、日本では自殺対策を国として、積極的にしなくてはならないことがよく分かります。 自殺の原因としては少なからず、うつ病が関係していることが多いと考えれています。「大うつ病性 障害」(DSM-IVという精神疾患の国際的な診断基準によるうつ病の呼び方)の15%の患者さんには自 殺企図がみられるとされています。このため、自殺予防対策として、うつ病対策が大切であると、国 も考えるようになりました。 とはいっても、自殺にはいくつかの原因があり、精神科に通院するだけで完全に防止できるものでは ありません。 薬を飲んだりカウンセリングを受けたとしても、自殺者の背景にある借金や失業、家庭環境の問題が 解決するわけではないからです。また、後で説明しますが、うつ病の患者さんの自殺はもっとも症状 が重いときよりも、症状が軽快し始めた頃に多いという特性があるのです。 しかし、早い段階で受診して、適切な治療でうつ病がよくなれば、防げたかもしれない自殺者がいる ことも確かです。 このような理由で、国がうつ病に関する啓発活動に力を入れるようになってきました。 ________________________________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第53号 2010年9月27日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ ンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かの シリーズで掲載していく予定です。 今回はうつ病シリーズの2回目です。 ----------------------------------------------------------- e-メンタルヘルス・マガジン 第53号  うつ病 -第2回- フィ ンランドで成功した自殺者対策  うつ病とアルコール依存の合併は危険! ---------------------------------------------------------- 自殺者を減らして行くにはどのような対策が必要でしょうか。 外国のやり方を見てみましょう。1990年に人口10万人に対し、 31人の自殺者を出した北欧のフィンランドは2004年には20.3名 と34.5%まで自殺者を減らすことができました。これは現在の 日本(10万人に対し24名)を下回る数字です。 フィンランドの調査では自殺者の80%にうつ病かアルコール依存 もしくは両方と思われる状態にありました。このうち、適切な治 療を受けていたものはごく少数であったことから、うつ病とアル コール依存症対策を中心として行っていきました。 さらに、 ・精神障害について正しい知識を教育する。 ・精神障害に対する偏見を減らすように働きかける。 ・困った時には援助を求めてもよいというメッセージを伝え、 援助を求めるのはむしろ適応力の高い反応であると教育する。 ・どこに助けを求めたらよいかという点についても正しい情報 を提供する などの対策を進めてきた結果、自殺者の減少に成功したのです。 日本の場合でも、うつ病とアルコール依存症が合併した例ではう つ病もアルコール依存症も治りにくく、自殺率も高いといわれて います。 もともと、うつ病の人は不眠や気分をよくしようとして飲酒する ことが、しばしば見られ、その結果、うつ病でない人たちに比べ アルコール依存症になりやすいということが疫学調査でわかって います。また、飲酒によって引き起こされるうつ病があります。 後者の場合はもちろんですが、先にうつ病がある場合でも、断酒 によってうつ病の方も改善することが多いのです。   依存症までのレベルではない人でも、うつ病の人は病気が改善さ れるまでは、なるべく飲酒を控えた方がよいでしょう。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第54号 2010年10 月14 日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ ンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かの シリーズで掲載していく予定です。 今回はうつ病シリーズの3回目です。 ----------------------------------------------------------- e-メンタルヘルス・マガジン 第54号  うつ病 -第3回- 日本の自殺予防対策 ---------------------------------------------------------- では、日本の自殺予防対策はどうなっているのでしょう。 うつ病を経験した人の75%は医療機関で治療を受けていない(平成 14年厚生労働科学特別研究事業「心の健康問題と対策基盤の実態に 関する研究」)と報告されています。 また、黒木宣夫の「労災認定された自殺事案における長時間残業の 調査」-精神疾患発症と長時間残業との因果関係に関する研究-に よると労災認定された51 例の過労自殺事例のうち月100 時間以上の 時間外・休日労働を行った労働者は53%(27 例)もみられ、管理職 と専門技術職を合わせると74%(38 例)を占めていますが、医療機 関を受診していた事例は33%(17 例)で、精神科を受診していた事 例は20%(10 例)でした。 過労自殺事例の8 割が精神科受診に至っ ていませんでした。 そのため、自殺予防のためには早期の専門医の受診を勧めていく必 要があると考えられます。 また、中央労働災害防止協会労働者の自殺予防マニュアル作成検討委員会 が発表した「職場における自殺の予防と対応」では次のようなサインを数 多く認める場合は、自殺の危険が迫っていると思われるので、 早い段階で専門家に受診させるべきだとして、自殺予防の十カ条とし て自殺のサインを次のように上げています。 1. うつ病の症状に気をつけよう。(気分が沈む、自分を責       める、仕事の能率が落ちる、決断できない、不眠が続く)      特に不眠は重要です。 2. 原因不明の身体の不調が続く。 3. 酒量が増える。 4. 安全や健康が保てない。 5. 仕事の負担が急に増える、大きな失敗をする、職を失う。 6. 職場や家庭でサポートが得られない。 7. 本人にとって価値あるもの(食、地位、家族、財産)を失う。 8. 重症の身体の病気にかかる。 9. 自殺を口にする 10. 自殺未遂に及ぶ。 「このようなサインのひとつひとつを取り上げると、人生のある時期には 誰にでも起こり得ると思われるかもしれません。 また、このうちいくつ以上を認めればただちに自殺が起きると予測できる というものでもありません。総合的に判断するのが重要であり、前述した 十箇条の項目のうち数多くを認める人に、以上のようなサインをいくつか でも認めたら、自殺が実行に移される危険は高いと判断すべきです。 救いを求める叫びとして真剣にとらえて、専門家による治療が受けられる ようにしてください。 今では効果的な薬や心理療法が各種開発されています。怖いのは、心の病 にかかったことではなく、それと気づかずに放置し、適切な治療も受けな いことなのです。」 と提言しており、日常からの配慮. 企業における心の健康相談体制の設置 を提案しています。 また4 ~ 5 時間睡眠が1 週間以上続き、かつ自覚的な睡眠不足感が明らか な場合は精神疾患発症、特にうつ病発症の準備状態が形成されると考える ことが可能と思われる」とも報告しており、 時間外労働月100 時間以上の労働に従事した労働者に精神医学的配慮が必 要と述べています。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第55号 2010年11月23日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ ンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かの シリーズで掲載していく予定です。 ----------------------------------------------------------- うつ病 -第4回- 治療を開始しても油断は禁物 ----------------------------------------------------------- しかし、自殺のおそれのある重度のうつ病は治療開始を開始して も数ヶ月間は自殺のリスクが高いとされており、専門医を受診して も油断はできません。 治療を開始したのにどうして自殺のリスクが高いままなのかと疑問 に思われる方も多いかと思われますが、その理由は、まず、抗うつ 薬が効き始めるまで通常1-2週間かかることです。 さらに、重いうつ病の場合は死にたいという気持ちはあっても自殺 するだけの動きが取れなくなっているということがあるからです。 この場合、ある程度治療で回復して、体が動くようになり始めたと きに自殺してしまうことがあるのです。 もちろん、治療しなければ、自殺のリスクは遙かに高まるわけです ので、治療しなければ自殺しなかったなどということはいえません。 このような悲劇を防ぐためにもうつ病が重くならない前に、より早期 の発見、早期の治療が大切になってくるのです。 また、薬や他の治療法を使っても、すでに状況があまりにも過酷にな ってしまった場合、たとえば失業して離婚、一人きりになって、さら に借金を抱えて酒量が増え、健康を害したというような状況ではどう しても自殺防止効果は限られたものになります。環境の改善さらに政 策的な総合的対策が必要になります。 __________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第56号 2011年5月 6日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。 当メールマガジンでは、まず、メンタルヘルス(精神医学)の主な病 気について、それぞれ何回かのシリーズで掲載していく予定です。 ご無沙汰しておりました。 東北地方太平洋沖地震により、被災された皆様や、そのご家族、な らびにご関係者の皆さまに対しまして、心よりお見舞い申し上げま す。 そして、一日も早い復旧復興をお祈り申し上げます。 ----------------------------------------------------------- うつ病 -第5回- うつ病の症状  ----------------------------------------------------------- さて、今回からうつ病という病気についてのお話です。うつ病とは どういうものでしょうか? ご存知のとおり、うつ病にはいろいろな症状があります。 * 人付き合いがしたくなくなる * 好きだったことに興味がなくなる * おいしかった食べ物がまずく感じられる * 会社や学校に行くのがおっくう * なんとなく体がだるい * 朝刊が読めなくなる(朝刊症候群などという言葉もあ      りました) * 周りからどう見られているか気になる * 何日も続けて眠れない これらの症状の一つ一つは「誰にでも起こること」であって、べ つに病気というわけではありません。 しかし、上記のような症状のいくつかが一日中長期間(2週間以上) 続くことがあれば、うつ病が強く疑われることになります。 次回はうつ病の種類、診断基準です。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460 ___________________________________________________________



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第57号 2011年 5月 31 日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ ンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かの シリーズで掲載していく予定です。 ----------------------------------------------------------- うつ病 -第6回-  うつ病の診断基 その1 操作的診断基準 ----------------------------------------------------------- うつ病の診断の厄介なところは、検査によって客観的な数字や画像 が得られるわけではなく、患者さんの訴えや様子、経過から総合的 に判断するものなので医師によっても一致しない場合もあります。 そのため、医師による診断の差が出にくい基準になるものが必要に なってきます。そこで操作的診断と呼ばれる診断の基準が求められ るようになりました。 現在、操作的診断基準として世界的に一般的に精神科の疾患の診断 基準として使われているものはDSM-IVというアメリカ精神医学会の 基準によるものです。 その中で大うつ病エピソードというものがいわゆるうつ病にあたり ます。 大うつ病エピソードの基準は、 以下の症状のうち少なくとも1つがある。 1. 抑うつ気分 2. 興味または喜びの喪失 さらに以下の症状を合わせて計5つ(またはそれ以上)が認められる 3. 食欲の減退あるいは増加、体重の減少あるいは増加 4. 不眠あるいは睡眠過多 5. 精神運動性の焦燥または制止 6. 易疲労感または気力の減退 7. 無価値感または過剰(不適切)な罪責感 8. 思考力や集中力の減退または決断困難 9. 死についての反復思考、自殺念慮、自殺企図 上記のような症状がほとんど一日中、ほとんど毎日あり、2週間に わたっている。症状のために著しい苦痛または社会的、職業的、 または他の重要な領域における機能障害を引き起こしている。こ れらの症状は一般身体疾患や物質依存(薬物またはアルコール) では説明できない。 と言うように定義されています。 この診断基準は、症状の種類と数、持続時間からうつ病が診断で きるので客観的で医師による差異が少なく、一般の人からみても 大変わかりやすいものです。同様のものにICD-10という国際分類 もあります。しかし、これらの操作的診断基準にはさまざまな問 題点も指摘されています。 次回はこの操作的診断法の問題点といわれるものについてです。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460 ___________________________________________________________



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第58号 2011年6 月 21 日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ ンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かの シリーズで掲載していく予定です。 今回はうつ病シリーズの7回目になります。 ----------------------------------------------------------- うつ病 -第7回-  うつ病の診断基準 その2 操作的診断基準 の問題点 ----------------------------------------------------------- さて、前回もお話ししたように、DSM-IVなどの操作的診断基準は、 症状の種類と数からうつ病が「診断」できるので客観的で医師で なくても大変わかりやすいものです。 しかし、これによってうつ病と診断されたからといって、治療法 や重症度、治るまでの時間が決まるわけではありません。また、 患者さんの年齢や性格、環境、経歴などの要素があまり考慮され ていないという問題があります。 要するに「感性」の部分が無視される傾向があるのです。 たとえば、思春期の子供が「うつ状態」になるということはよく あります。 ときに、前記の「うつ病」の診断基準を満たすこともあります。 しかし、これらをみなうつ病として大人と同じように薬や「カウ ンセリング」で治療することは正しいのでしょうか? 思春期には勉強や運動部、最近ではゲームのやり過ぎなどによる 疲れや睡眠不足でも、場合によってはこれらの基準に当てはまっ てしまうこともあります。 この場合は単に休養や睡眠を十分とらせるだけでよいのです。 また、それより重いケースでも、大部分はいわゆる「いじめ」 「教師、親との葛藤」「兄弟げんか」などはっきりした原因が あって起こる「反応性」のものであり、適切な助言や介入のみ で多くは立ち直っていきます。 抗うつ剤や長期間のカウンセリングが必要になったり、学校を 休まなければならないケースはそう多くはないものです。 また、実際に24歳以下の患者さんの場合では抗うつ剤の使用 は自殺企図の確率を高める危険があるといわれており、慎重に おこなう必要があります。 これに対し、うつになる理由がはっきりしない中高年のうつの ときには、積極的に抗うつ剤など薬物療法を行う方がよい結果 を得られることが多いのです。 また、ストレスが大き過ぎる場合は、薬の重要性もさることな がら、まず環境を改善して、ストレスを軽くすることが必要です。 失業して借金をし、一家離散になってしまったというような状況 では、抗うつ剤やカウンセリングだけでは十分な効果は期待でき ないのです。 うつ病はケースによって異なります。DSM-IVでうつ病(大うつ病 エピソード)と診断されただけではきわめて大ざっぱなことしか いえないのです。 とはいえ、治療戦略を立てるためにも、うつ病を分類していかな ければなりません。 次回はうつ病のタイプについてです。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460 ___________________________________________________________



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第59号 2011年8月 20日発行 =========================================================== 延々と続く猛暑の中、皆様お元気でしょうか? このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ ンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かの シリーズで掲載していく予定です。 今回はうつ病の8回目です。 ----------------------------------------------------------- うつ病 -第8回- うつ病のタイプ 歴史的分類 ----------------------------------------------------------- 今から20年くらい前には、うつ病は次のように大きく3つに分類さ れていました。 ○内因性うつ病 ○神経症性うつ病 ○心因反応(反応性うつ病) 内因性うつ病とは明らかな原因が見当たらず(きっかけのような ものはあるが「うつ症状」を起こすほどのものとは思われない) に発症するうつ病で、うつ病の中核的なものです。勤勉でまじめ な人がなりやすいといわれ、薬が効きやすい傾向があります。 神経症性うつ病とは葛藤を生むような体験から抑うつ症状を引き 起こすもので、葛藤を起こしやすい性格の人が環境の影響を受け て発症するもので、薬だけでは改善しにくいものです。 心因反応(反応性うつ病)は家族と死別するなどの大きなストレ スによる抑うつ症状が通常より強く長引くものです。 これらは、うつの「原因」によって分類したもので、治療は、内 因性は薬物療法を中心になり、神経症性は精神療法と環境調整に も重きをおき、心因反応は時間の経過とともに回復する傾向があ るので薬や精神療法を続けながら回復を待つというものです。 この分類は、個人的には分類しやすく、それなりに使い勝手のよ いものでしたが、いくつかの問題が指摘されました。 まず、医師によって診断の精度および診断の一致度が意外に高く なかったこと。 また、当初内因性と思われたものが、経過を見ているうちに神経 症性のようになったり、心因反応と思われたものがなかなか回復 せず、他のタイプのようになったりするということ。   さらに、抗うつ薬の治療反応性に対してそれほど有用な分類では ない。内因性だから薬が効きやすいというわけだはないし、神経 症性だから効きにくいともいえないという声があったこと。 もう一つ、うつ病の統計、研究に使いにくいということ。 これらの理由で、最近二十年くらいではDSM-ivやICD-10といった国 際的分類が使われるようになりましたが、前回述べたような別の問 題が出てきているわけです。 さらに、「現代型」などと称される新しいうつ病も登場してきました。 これは次回に ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460 ___________________________________________________________



============================================================ e-メンタルヘルス・マガジン 第60号 2012年 1月 13日発行 ============================================================ このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が編 集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、心療 内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メンタル ヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かのシリーズで 掲載していく予定です。 ------------------------------------------------------------ -うつ病- 第9回 現代型うつ病 その1 ------------------------------------------------------------ 長期間のご無沙汰でした。前回までの話をお忘れになった方も多いか と思いますので、少し復習を。 前回にも少し触れましたが、本来、うつ病になる人の元々の性格は 「まじめ」「几帳面」「熱中しやすい」「融通が利かない」「悪いこ とはみな自分の責任と思いこみやすい(自責的)」「秩序を重んじる」 といわれていました。 昭和の終わり頃、入院や長期間の休養を必要とするようなうつ病の患者 さんの多くはこのような人たちでした。 このような人には抗うつ剤という薬も良く効き、治療するとはっきりと 良くなるという印象でした。 また、神経症性うつ病というのは、「不安が強い」「自信がない」 「人間関係がうまくいきにくい」「未熟」人がなりやすいといわれてい ました。 ところが、最近のクリニックなどでみられるうつ病にはこれらの特徴と は違うものが多く見られるようになってきました。 これが現代型うつ病です。 現代型は大ざっぱにまとめると、 *病前性格が異なる。内因性の特徴とされる几帳面さ、組織への帰属意識 の高さ、融通の効かなさはない。こだわりはあっても限局的であり、生活 全般には及ばない。 *また、もともとの周囲への適応は悪くなく、自信のなさ、未熟さ、不安 の強さもそれほど強いものではない。 *よく注意すると軽いそう状態もみられることがある。 *ストレスを誘因にして発症することが多いが、そこから逃げていく印象、 復職への危機感が足りない印象 *自分にも問題があるという意識はあるが、どこかに被害者である。損をし ている。という意識もある。 *気力が出ない、倦怠感があり、仕事に対する興味関心は薄いが一方ゲーム、 旅行など趣味的なものはできる。 *抗うつ薬が効きにくく、従来のうつ病に比べて治りにくい。 *精神療法(薬を飲む以外の治療法)を含めて有効とされる治療法が確定して いない。もちろん放置していてもよくなるというものではない。 などの特徴が指摘されています。 ____________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第61号 2012年1月30日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ ンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かの シリーズで掲載していく予定です。 内閣府が毎年3月に行う自殺対策強化月間のキャッチフレーズが、 今年度は「あなたもGKB47宣言!」に決まったそうです。 GKBとは「ゲートキーパー・ベーシック」の頭文字。ゲートキーパ ーは「自殺のサインに気付き、話を聞いて専門相談機関につなぐ役 割が期待される人」。ベーシックには「専門家以外の一般参加者」 を期待する意味があり、これに全国の都道府県数47を組み合わせた もので、「自殺問題を身近に考えてほしいという思いを込めた」と 説明されています。 このキャッチはさすがに少々やりすぎとは思いますが、自殺問題を 何とかしようという気持ちは伝わってくる気がします。 ------------------------------------------------------------ -うつ病- 第10回 現代型うつ病 その2 ------------------------------------------------------------ 前回に続いて「現代型うつ病」のお話です。   現代型うつ病のような新しいタイプのうつ病については1970年頃から 「逃避型抑うつ」「未熟型うつ病」などと呼ばれる従来のものとは違 ううつ病のタイプが報告されていました。 ただ、現在のように一般的にみられるという印象はありませんでした。 この病気で何が問題かと云うと、周りの人々にとって、「現代型うつ病」 は「さぼっているようにしか思えない。」「不真面目である」「自分の 興味のある仕事しかしない。」ように見えてしまうことです。 従来の内因性うつ病はもともとの性格が「まじめ」「几帳面」「熱心」 「自分を責める傾向(自責的)」ですから、周りからみても気の毒に思 い、ついつい励ましたくなる(いけないのですが)ようなタイプの人が 多いのとは対称的です。 また、現代型の患者さんは自分の考えを曲げず、家族、会社関係者、医 療関係者などの周りの人の意見を受け入れない傾向があり、周りが悪い と責めるところがあります。 そのため、周囲から援助が受けにくく、より、悪い方向へ進んでしまう ことも多いのです。 さらに、厄介なことに抗うつ薬があまり効かないことがわかっており、 長く通院してもなかなか症状が良くならないことも大きな問題です。 しかし、現代型うつ病は「患者さんが悩んでいる」病気なのです。単 なる性格の問題でも病気に逃げているわけでもなく、いわんや仮病で はありません。 ではどうすればよいのでしょうか?確かに、今のところ標準的な治療 というものはありませんが、これまで工夫された方法である程度効果 のあるものはあります。これについては後ほどお話しします。 次回はうつ病の症状(精神的、身体的)についてです。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第62号 2012年2月17日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ ンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かの シリーズで掲載していく予定です。 前回引用したGKB47ですが、結局このままでは使われないことになっ たようです。確かにGKB47では何のことやら、わからないですよね。 作ったポスターは廃棄されるとのことですが、「自殺予防」が注目 されたので取りあえずよし、ということなのでしょうか? ところで、GKBというのはゴキブリの略だといって反対した人もいた ようですが、その人は自殺問題をまじめに考えていたのかどうか? ちょっと疑問ですね。 ------------------------------------------------------------ -うつ病- 第11回 うつ病の原因、きっかけ ------------------------------------------------------------ うつ病の症状へ行く前に、原因、きっかけについて少し。 うつ病の原因ははっきりとはわかっていません。しかし、脳内に あるセロトニンとノルアドレナリンという神経伝達物質が関係して いると考えられています。 神経伝達物質とは脳内のシナプスという部分で、神経細胞から次の 神経細胞に情報を伝達するときに必要になる物質です。 うつ病では何らかの原因で脳の中のシナプス前部とシナプス後部 (受容体)の間でセロトニンやノルアドレナリンが欠乏し、情報が うまく伝達されなくなっている状態と考えられています。 ノルアドレナリンの欠乏では気力、意欲の低下、セロトニンの 欠乏では不安、緊張感が出現するといわれています。 うつ病では、脳内のセロトニンやノルアドレナリンの放出量が少なく なっていると考えられており、また、これらの神経伝達物質は情報を 伝達したあと再び元の細胞に取り込まれるため、ますます少なくなっ てしまいます。抗うつ薬は元の細胞に取り込まれることをブロックす ることで、シナプス間の神経伝達物質を減らさないように作用します。 抗うつ薬にはセロトニンやノルアドレナリンの欠乏を防ぐ効果がある のでうつ病の症状がよくなるというわけですね。 このような変化を引き起こす原因には遺伝的なものや成長期の問題、 環境の問題などいろいろなものが絡んでいると思われています。 さて、うつ病とくに従来の内因性といわれるタイプには発病に関連 する、いろいろなきっかけがあることが知られています。 これらのことは当然その人にはショックなことなのですが、周りの 人が考える以上の落ち込みや気力の低下が出てくるとうつ病につな がってくるわけです。 1.体の病気になったりけがをすること。 2.子供の独立や失業、退職など、これまで自分を支えてきた人間 関係や地位を失うこと。 3.親しい人の死や別れ。    これらは喪失体験と呼ばれる自分が持っていたものを失うものです。 4.自分の周りの環境の変化。 離別や失業などの悲しい出来事以外に、昇進、進学、家の新築 などの喜ばしい出来事でもうつ病を引き起こす可能性があります。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第63号 2012年3月21日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ ンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かの シリーズで掲載していく予定です。 ところで、自殺対策強化月間に行う啓発キャンペーンGKB47は結局、 AKB47を使って再度キャンペーンをすることになったようです。 うーん、ひょっとして内閣府の筋書き通り?最初からAKBを使って いれば不謹慎と大バッシングされ、とてもじつげんはできなかった でしょうから。 ------------------------------------------------------------ -うつ病- 第12回 うつ病の症状 ------------------------------------------------------------ 今回はうつ病の症状です。 うつ病でよく見られる訴えは第1回のときにお話ししました。 うつ病には精神症状(気分的な症状)と身体症状(体に出る症状) の両方があります。 中でも抑うつ気分(気分が鬱々として沈む)と興味または喜びの 喪失(自分の好きなものに関心がなくなる、何をしても楽しめない) はうつ病の二大症状と言われ、最も起こりやすい症状です。 専門的な用語を使いますと以下のようになります。 *感情・思考面の症状 抑うつ気分(ゆううつな気持ち) 悲哀感 不安・焦燥感 絶望感 自責的 過度な心配 自殺念慮(死にたいと思うこと) 罪業妄想(取り返しのつかない悪いことをしてしまったと思い込む) 貧困妄想(お金があるのにないと思い込む)など *意欲面の症状 思考・行動制止(おっくうさ) 興味または喜びの喪失 日内変動(午前中にうつ症状が重く午後は軽い)などです。 *身体症状には次のようなものがあります。 症状          睡眠障害(不眠、過眠) 疲労・倦怠感      食欲不振      頭痛・頭重感      性欲減退      便秘・下痢      体重減少      特に睡眠障害は80%以上のうつ病患者にみられ、重要な症状です。 身体症状そのものはカゼをひいたり、疲れたりした程度でもよく 出現するもので、「うつ」病に特徴的なものではありませんが、 うつ病のとき、精神症状とともに出現し、長期間持続することが あります。 「仮面うつ病」 不眠や頭痛などの身体症状が先に出て、抑うつ気分などの精 神症状がはっきりと現れないうつ病を「仮面うつ病」といいま す。 先ほども述べたように、うつ病の身体症状はうつ病に独特なも のではないので、上にあげたような症状が出たからといって、 すぐに、うつ病とはいえません。しかし、数週間以上にわたっ てこのような症状が続き、内科を受診しても特に異常がないよ うな場合、「仮面うつ病」である可能性があります。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第64号 2012年5月2日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ ンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かの シリーズで掲載していく予定です。 ------------------------------------------------------------ -うつ病- 第13回 老年期うつ病 その1 ------------------------------------------------------------ うつ病はあらゆる年代で起こりうる病気ですが、65歳以上のうつ病 をとくに老年期うつ病といいます。 厚生労働省の平成20年の調査によると日本では躁うつ病を含めた気分 障害患者の30%が65歳以上でした。 老年期のうつ病は若年者とは異なり、脳の血管の病気や身体の疾患 およびその治療薬の副作用、さらに近親者との死別や身体機能の低 下、社会的役割の縮小などの心理社会的要因等が複合的に絡み合っ て発症すると考えられています。   すなわち、脳出血、脳梗塞などの脳血管障害などによる脳その もののダメージにより、認知機能やストレスに耐える力が脆弱にな ってきたところへ、子供の独立や近親者、友人との死別などの「喪 失体験」などのストレスが引き金となって老年期うつ病の発症に至 ると考えられています。 老年期うつ病での主な特徴には次の2つがあります。 1つは、不安や焦燥感が強いことです。 いても立ってもいられずに家の中を徘徊したり、廊下を行ったり来 たり落ち着きがなかったりというような症状が出やすくなります。 また、苦悶も強く興奮を示すこともあります。 もう1つは、抑制(おっくうさ)が比較的軽いことです。 よく動き、よくしゃべり、一見病気と思わせないことがよくみられ ます。 このように不安、焦燥感が強く、抑制が軽いタイプのうつ病を激越 うつ病ともいいますが、これは老年期うつ病では多く見られます。 このほか、老年期うつ病には *心気症状(はっきりとした身体の異常がないのに体の不調を訴える) が多い *意識障害(せん妄)を伴う *妄想(心気、貧困、罪業)抑うつによって認知症と区別ができないよ うな症状(仮性認知症といいます)を示す *身体の病気の併発が多い *治療薬の副作用が現れやすい *それ以下の年齢に比べ自殺率が高い などの特徴もあります。 うつ病はさまざまな身体の疾患に伴って認められることが報告されてい ますが、老年期では他の世代よりも身体の疾患の発症率が高くなるため、 身体の疾患と関係するうつ病の発症も多くなります。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第65号 2012年 6月12日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ タルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かのシ リーズで掲載していく予定です。 ------------------------------------------------------------ -うつ病- 第14回 老年期うつ病 その2 ------------------------------------------------------------ 老年期うつ病と認知症 老年期のうつ病と認知症は一見、全く異なった病気で、簡単に見分 けがつくと思われがちですが、それが難しいケースがあります。 とくに、うつ病の思考制止(ものを考えるスピードが遅くなって考え が進まなくなる)などのために集中力や判断力が低下している場合 には一見認知症のように見えることがあります。これは仮性認知症 と呼ばれるもので、うつ病が軽快すれば状態が改善するため認知症 との鑑別が重要になってきます。 老年期のうつ病と認知症の違いを以下の表にまとめます。 老年期のうつ病による仮性認知症と認知症の違い 仮性認知症(うつ病) 認知症 ___________________________________________________________ 病識(自覚) ある                   少ない ___________________________________________________________ 悩み ある 少ない ___________________________________________________________ 時、場所の状況 の把握(見当識)保たれている又は一定しない       障害があることが多い ___________________________________________________________ 記憶 障害がない又は最近、昔の記憶が同時に障害   最近の記憶が早期から障害される ___________________________________________________________ 質問への反応 遅い   障害されない ___________________________________________________________ 抗うつ薬 おおむね有効 無効 ___________________________________________________________ しかし、最近の報告によれば、仮性認知症の患者は一般高齢者に比 べて認知症に移行する確率は2.5倍から6倍といわれ、仮性認知症と いわれるレベルに達した高齢のうつ病患者は認知症になりやすいと されています。 つまり、老年期のうつ病と認知症には密接な関係があると考えられるのです。 アルツハイマー型認知症では10-20%、脳血管性の認知症では30%弱にうつ病が合併 しているという報告がありますが、とくに、レビー小体型認知症の場合ではうつ 症状がみられることが多く、筑波大学で検査のため入院した50歳以上うつ病の患 者の 13.8%が実はレビー小体型認知症であったという報告があります。(2012水上) また、もの忘れがなく、かつ、うつ病の診断基準を満たしていた人が亡くなって、 たまたま脳の剖検をしてみたところ大脳皮質内に多数のレビー小体が見られた (すなわちレビー小体型認知症の所見があった)ということも報告されています。 このように老年期のうつ病は認知症に移行したり、合併したりするものがあり、 実際に鑑別するのは難しいものなのです。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460