e-メンタルヘルスメールマガジン
うつ病 後半

第66号 うつ病の治療 その1 病院・クリニックにいくその前に

第67号 うつ病の治療 その2 追補

第68号 うつ病 第17回 うつ病の治療 その3 うつ病の治療法

第69号 うつ病 第18回 うつ病の治療 その4 薬物療法 その1

第70号 うつ病 第19回 うつ病の治療 その5 薬物療法 その2

第71号 うつ病 第20回 うつ病の治療 その6 薬物療法 その3

第72号 うつ病 第21回 うつ病の治療 その7 薬物療法 その4

第73号 うつ病 第22回 うつ病の治療 その8 薬物療法 その5

第74号 うつ病 第23回 うつ病の治療 その9 薬物療法 その6

第75号 うつ病 第24回 うつ病の治療 その10 薬物療法 その7

第76号 うつ病 第25回 うつ病の治療 その11 薬物療法 その8

第77号 うつ病 第26回 うつ病の治療 その12 薬物療法 その9

第78号 うつ病 第27回 うつ病の治療 その13 薬物療法 その10

第81号 うつ病 第28回 うつ病の治療 その14 薬物療法 その11

第82号 うつ病 第29回 うつ病の治療 その15 薬物療法 その12

第84号 うつ病 第30回 うつ病の治療 その16 その他の療法 その1

第85号 うつ病 第31回 うつ病の治療 その17 その他の療法 その2

第86号 うつ病 第32回 うつ病の治療 その18 精神療法 その1

第87号 うつ病 第33回 うつ病の治療 その19 精神療法 その2

第88号 うつ病 第34回 うつ病の治療その20 精神療法 その3

第89号 うつ病 第35回 うつ病の治療その21 精神療法 その4

第92号 うつ病 第36回 うつ病の治療その22 精神療法 その5 対人関係療法



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第66号 2012年 8月 21 日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ ンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かの シリーズで掲載していく予定です。 ----------------------------------------------------------- e-メンタルヘルス・マガジン 第66号 うつ病の治療 その1 病院・クリニックにいくその前に ----------------------------------------------------------- さて、治療編に入りますが、今回のテーマは「病院・クリニックに 行くその前に。」 ということで、気分が沈む、意欲が湧かないというような「うつ病か な?」と思われる症状がみられたとき、通院する前に、まず、チェッ クしておくべきことを考えてみたいと思います。 まず、日常生活をチェックしてみましょう。仕事や日常生活の中でや むを得ず受けてしまうストレスを引き金に「うつ」になることは確か に防ぐのが難しいものですが、ちょっと努力すれば自力でうつ症状を 改善できるものもあります。 1. 睡眠時間はちゃんととれていますか? 睡眠時間は本来7時間は必要です。ナポレオンは4時間しか眠らなかっ たという話はありますが、実際には馬上で寝ていたということで参考 にはなりません。 睡眠時間がずっと少ないままならば疲労が蓄積し、 その結果、うつ状態になることもあります。 まず、3-4日で良いですから十分な睡眠時間を確保して、それでも 「うつ」が変わりなければ病 院に行くことを考えて下さい。 若い頃から睡眠は短かったという方も いるかもしれませんが、いつまでも若くはありません。疲れはだんだ ん抜けにくくなってきます。 2. 睡眠のサイクルがずれていませんか? 若い人に多いかもしれませんが、ゲームやネットなどで連日、夜更か しをしている場合、翌朝に眠気、ふらつき、立ちくらみなどが出るこ とがあります。これは睡眠がずれ込んで身体がまだ眠っているにもか かわらず無理に起きれば当然ありうることです。 眠い、やる気が出ない、学校に行きたくないというお子さんの話を 聞いて「うつ」と思ってしまい、子供さんを連れて病院・クリニッ クにいらっしゃるお母さんんを時々見かけますが、単純な夜更かし、 睡眠サイクルのずれである事が多いのです。 軽度のうちは朝、強制的に起きる時間を設定する ことによって症状は改善します。 3.酒を飲んでいませんか? アルコール依存症のレベルまではいかなくとも、ある程度の量の 飲酒(一日あたり日本酒2-3合程度以上)をほぼ毎日続けていると、睡 眠の質が低下し、疲労が抜けずにうつ状態につながる場合もあります。 それ以外にも酒による失敗、家庭不和などがうつ状態の引き金になる こともあります。 アルコール依存症の方や会社や家庭の中で飲酒による問題が大 きい方は専門医療機関での断酒が必要になります。 3ヶ月程度断酒をすると、それだけでうつ状態が改善することが多い のです。それまで抗うつ剤を服用していた人でも、断酒をするだけで 抗うつ剤が要らなくなることが珍しくありません。 依存症レベルまではいかない方でも節酒(具体的には週の半分は「休 肝日」にするなど)することによって、うつ症状が改善することはよ く見られます。 うつ病は、ある意味でその人の生活習慣が反映される病気です。人付き 合いが少ない、運動不足や嗜好品(酒、コーヒー)なども発症に影響を与 えることがあります。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460 ___________________________________________________________



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第67号 2012年9月5日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ ンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かの シリーズで掲載していく予定です。 ----------------------------------------------------------- e-メンタルヘルス・マガジン 第66号 うつ病の治療 その2 追補 ----------------------------------------------------------- 前回、うつ状態と飲酒についてお話ししましたが、節酒についてもっ と正確に書いた方が良いというご意見がありましたので、追補として 説明します。 WHOが提唱する「低リスク飲酒」は  ・1日量は純アルコール換算20gまで=日本酒1合or ビール500mlor 25度焼酎0.5合まで ・週に5日まで となっています。この量が節酒の目安として推奨されています。 「うつ」予防という観点でいくと、この「低リスク飲酒」量を上回 らないようにするべきと思われます。 また「治療薬を内服中の方は禁酒」というのがWHOの推奨する「原則」 です。 あらゆる薬は同時に飲酒することを想定しておりませんので、 酒量が上記の低リスク量以下であっても、思いがけない副作用が出現 する場合がありますのでくれぐれもご注意下さい。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460 ___________________________________________________________



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第68号 2012年 10月13日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ ンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かの シリーズで掲載していく予定です。 -------------------------------------------------------------- うつ病 第17回  うつ病の治療 その3 うつ病の治療法 ------------------------------------------------------------- さて、前々回、前回でお話しした睡眠、生活のリズム、飲酒の問 題をチェックしてみても、やはり改善が見られず、それが2週間以上 持続する場合には、治療を開始する必要があります。 うつ病の治療は大きく分けて * 薬物療法 * 精神療法(患者さんとの面接を通して状態を改善するよ うに働きかける) * リハビリテーション(リワーク) * その他(物理的な刺激を与える方法など) があります。 これに加えて、これまで抱えてきた仕事や家事の負担を下ろし、 心身の疲労を十分に取る「環境調整」「休養」が重要になります。 もちろん、睡眠、生活リズムの調整、飲酒を控えることも大切です。 一般的には可能な範囲で環境の調整を行い、症状に応じて必要な休 養を取り、薬物療法に精神療法を組み合わせる方法が行われていま すが、個々のケースに応じて使い分けていくことになります。 とくに最近注目されている「現代型」うつ病では薬物療法が効きに くいことが知られており、そのために出勤ができなくなった勤労者 に対して「リワーク」というリハビリテーションが行われるように なり、注目されています。 次回はまず薬物療法からお話ししましょう。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第69号 2013年2月1日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ ンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かのシ リーズで掲載していく予定です。 -------------------------------------------------------------- うつ病 第18回 うつ病の治療 その4 薬物療法 その1 ------------------------------------------------------------- 今回は薬物療法、抗うつ薬についてです。 うつ病(とくに中等度以上の)には、薬物療法が治療の中心になります。 うつ病を治療する薬を「抗うつ薬」といいます。 うつ病の患者さんは脳内の神経と神経の間にあって情報を伝える働きを 持つ神経伝達物質といわれるセロトニンおよびノルアドレナリンの働き が低下していると考えられています。一般にセロトニンの働きが低下す ると不安、緊張、焦燥感食欲、性欲の低下が見られ、ノルアドレナリン の働きが低下すると不安、意欲および活動性の低下や興味のあったこと に関心が持てなくなるなどのことが起きます。 抗うつ薬の作用はこのセロトニンとノルアドレナリンのどちらかあるい は両方の働きを回復させるものです。 最初の抗うつ薬であるイミプラミン(商標名トフラニールなど)が日本 に導入されたのは1959年(昭和34年)のことです。 これに続いて 1961年にアミトリプチリン(トリプタノール)1973年にクロミ プラミン(アナフラニール)などが発売されました。これらは第1世代 の抗うつ薬と言われ、構造式から三環系抗うつ薬といわれています。 三環系抗うつ薬は効果が強く、最近発売された薬と同等以上の作用があり 、現在でも使われています。しかし、のどが渇く、便秘、眠気、排尿困難 (夜尿症の治療に使うことがあるほどです) などの副作用が強く、さらに、 まれではありますが循環器系への悪影響も認められています。 また、効果が出るまでに2週間くらいかかる等の欠点があり、使いこなす のがなかなか難しい薬です。 1980年代に第2世代と呼ばれる抗うつ薬が登場しました。まず、三環 系に分類されるアモキサピン(アモキサン)です。抗うつ作用が強く効果 が出るのが1週間前後と早いのが特徴ですが、急に中止すると強い不安、 焦燥感などの離脱症状が出ること、抗精神病薬のような錐体外路症状が出 ることがあります。 次いで四環系抗うつ薬といわれるマプロチリン(ルジオミール)ミアンセ リン(テトラミド)などです。マプロチリンはノルアドレナリン作用の増 強に優れています。 この他にセロトニンの作用を増強するSSRIの走りとも言えるトラゾドン (レスリン、デジレル)も発売されました。この薬は抗うつ効果は若干弱 い印象はありましたが、不眠の改善効果が強くまた、眠気が翌朝残りにく い特徴があります。 また、うつ病だけでなく統合失調症、神経症(不安障害)さらには胃、十 二指腸潰瘍にも使われるスルピリド(ドグマチール、ミラドール)という 薬も、この頃発売されています。 この薬は少量ではドーパミンという神経伝達物質の分泌を促す作用があり、 抗うつ作用があり、多めに使うと逆にドーパミンの作用を抑え統合失調症 の症状を改善するというユニークな薬です。 抗うつ効果は弱いのですが眠気や鎮静作用が比較的少なく、食欲を出す作 用があり、よく用いられます。 しかし、生理不順や乳汁分泌を起こす副作用があり、若い女性には慎重な 使用が必要とされます。 これらの薬は第1世代の抗うつ薬にみられた副作用が少なくなり、比較的 安全に使用できるようになりましたが、抗うつ効果については三環系に優 るものではありませんでした。 次回はSSRI,SNRIなど最近発売された抗うつ薬についてです。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460



======================================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第70号 2013年3月18日発行 ======================================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が編集する精神 医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、心療内科の領域)するもの です。当メールマガジンでは、まず、メンタルヘルス(精神医学)の主な病気に ついて、それぞれ何回かのシリーズで掲載していく予定です。 少々時間がたってしまいましたが、2012年の全国の自殺者数は、前年より2885人 (9.4%)少ない2万7766人(速報値)となり、1997年以来、15年ぶりに3万人 を下回った(警察庁の発表)とのことです。 うつ病の早期受診の奨励など行政や医学界の啓発活動の効果が現れてきたというこ とかもしれませんが、一方、団塊の世代とその後の出生数が多かった世代が自殺 の危険が多い40-50代を通り抜けたことが本当の原因だとする意見もあります。 年代別の自殺率は高度成長期と変わっていない(それ以前よりも低い)のですね。 なるほど。 今年も自殺者がさらに減るように各界の皆さんの活動に期待しましょう! ------------------------------------------------------------------------------ うつ病 第19回 うつ病の治療 その5 薬物療法 その2 ------------------------------------------------------------------------------ 前回の追加。スルピリド(ドグマチール、ミラドール)は高齢者の方は歩行障害(重心が 前のめりになり転倒しやすくなる)や振戦(手の震え)などの副作用が出る場合 があり、注意が必要です。 では、今回は第3世代の抗うつ薬で、現在の薬物治療の中心になっているSSRI,SNRIにつ いてのお話です。 SSRIはSelective Serotonin Reuptake Inhibitors (選択的セロトニン再取り込み阻害薬) の略称で神経伝達物質のうちセロトニンの作用を増強させる薬です。 それまでの抗うつ剤はノルアドレナリン単独かノルアドレナリンとセロトニンの作用を 増強するものでしたが、SSRIはセロトニンの作用を主に強くした抗うつ薬です。 効果そのものは三環系と同じかやや劣るものでしたが、三環系抗うつ薬にみられる副作用、 すなわち、のどが渇く(口渇)、便秘、眠気や排尿困難といったものが大幅に改 善され、患者さんが飲みやすくなったというメリットがありました。 さらに、SSRIはうつ病以外にもフルボキサミンは強迫性障害、社会不安障害(社 交不安障害ともいう)に、パロキセチンはパニック障害、強迫性障害、社会不安 障害にセルトラリンはパニック障害などのいわゆる「神経症」といわれる症状に も適応があり、また、精神科以外の診療科にも宣伝されてよく使われたこともあり、 一気に抗うつ薬の主流に躍り出ました。 当時はこれで「うつ病」は精神科でなくても治療できると言った人もいましたが。 まあ、そうはならなかったのですが。 日本でSSRIの第一号として登場したのが1999年に承認されたフルボキサミン (ルボックス、デプロメール)でした。翌2000年にパロキセチン(パキシル)が 発売され、2006年にセルトラリン(ジェイゾロフト)2011年に一番新しいエスシ タロプラム(レクサプロ)が使えるようになりました。 パロキセチンは一日一回、他の薬も一日二回の服用で済むという点で飲み忘れが 少ないのも特徴です。 しかし、SSRIには三環系には少ない胃の不快感、悪心、嘔吐、また、三環系にも よく見られる眠気、めまいなどの副作用がしばしば認められます。これらはおお むね2週間くらいで改善しますが、人によっては持続することがあり、他の系統 の薬に変更せざるを得ない場合もあります。 フルボキサミンは効果が現れるまで時間がかかり、効果がはっきりしにくい印象 がありますが、うつ症状が安定してからの減量はやりやすい印象です。最近は認 知機能(外界からの刺激を知覚して情報の処理を行う機能)の改善に効果がある といわれています。 一方、パロキセチンはうつの改善の切れ味がよく、相性のい い患者さんはすっきりと良くなる印象がありますが、量の増減がなかなか難しく、 とくに中止時や減量時に不快な症状(断薬症候群)が出やすいといわれています。 (減量時の症状はパロキセチンに限ったものではありませんが)断薬症候群など 重い副作用に関しては後述します。 これに対応して、血液中の薬の濃度が変動しにくく減量時の問題が少ないといわ れるCR錠が2012年に発売されています(パキシルCR)。 セルトラリンは眠気が少ない傾向があり、エスシタロプラムは発売されて間もな いですが、半減期が長く、減量時の副作用が出にくいといわれています。 一方、SNRIはSelective Serotonin & Norepinephrine Reuptake Inhibitorsの略 で選択的セロトニン、ノルアドレナリン再取り込み阻害剤という日本語訳になり ます。 日本では2000年10月にミルナシプラン(トレドミン)が発売されました。この後 、2010年にデュロキセチン(サインバルタ)も登場しています。 SNRIは今のところ、パニック障害などの「神経症」には適応がありません。デュロ キセチンについてはうつ病以外に糖尿病性神経障害による疼痛にも適応がありま す。 SNRIも効果の面では三環系抗うつ剤より優れたものではありません。効果は意欲の 低下や興味の消失に関してはSSRIより効果があると言われています。また副作用 は三環系に比べて穏やかです。しかし、SSRIに比べれば尿が出ない、頭痛などの 副作用は目立つようです。一方、吐き気は出にくく、また、他の薬物との相互作 用もSSRIより少なめです。 次回に続く _______________________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第71号 2013年4月2日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ ンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かの シリーズで掲載していく予定です。 ------------------------------------------------------------------------------ うつ病 第20回 うつ病の治療 その6 薬物療法 その3 ------------------------------------------------------------------------------ 最近、さらに新しいタイプの抗うつ剤が出ています。 ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬。 略称NaSSA( Noradrenergic and Specific Serotonergic Antidepressant)です。 NaSSAはSNRIと同様セロトニンとノルアドレナリンの脳内での 働きを増強して抑うつ気分や不安を和らげる作用がありますが、 NaSSAとSNRIとの違いはNaSSAの方が神経伝達物質に対する親和 性が強いということです。 現在、日本で販売されているのは2009年に発売されたミルタザ ピン(リフレックス、レメロン)一つだけです。 構造は四環系抗うつ剤ミアンセリン(テトラミド)に似ており、 薬物相互作用(他の薬との飲み合わせ)による有害な作用は比 較的少ないといわれています。 主な特徴は *うつに対する効果の出現が早い。1週間程度で改善がみられ る。 *不眠の改善効果が強いので寝る前に服用する。睡眠導入剤 (眠剤)を併用せずに済むことが多く、薬の数を減らすこと ができる。 *逆にいえば朝に眠気が残りやすい。同様に不眠の改善効果 が強いトラゾドン(デジレル、レスリン)と比べると、眠気 が長時間持続する傾向がある。 *食欲増進効果があるが、(女性により多い)過度になると 肥満につながる可能性がある。 *吐き気、消化器症状などのSSRIにみられる副作用はあまり みられない。 *また、減量中止時の断薬症状も出にくい。 *効果が必ずしも用量に比例しない印象 まだ、発売されてから時間が経っていないので、わからない 点もありますが、治療の幅を広げられる可能性のある薬のよ うに思われます。 次回に続きます。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460 ___________________________________________________________



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第72号 2013年5月10日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ ンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かのシ リーズで掲載していく予定です。 ------------------------------------------------------------------------------ うつ病 第21回 うつ病の治療 その7 薬物療法 その4 ------------------------------------------------------------------------------ 今回は抗うつ剤の効果と飲み方 抗うつ剤は当たり前のことですが、うつの症状を改善する薬です。 1. 沈んだ気持ちを持ち上げる。 2. 億劫さをなくし、やる気を出す 3. 不安やイライラ(焦燥感)をとる 4. 体調を良くする 5. 不眠の改善 などの効果があります。 しかし、抗うつ剤というものは効果が出るまでに時間がかかります。 服用してすぐ効くものではありません。 効果が早いアモキサピン(アモキサン)、ミルタザピン(リフレック ス、レメロン)でも飲み始めてから効果が感じられるまで一週間はか かり、多くのSSRI,SNRIは開始後2週間程度の時間を必要とします。 しかも、副作用も考えなければいけないので、最初から多めに薬を出す わけにも行きません。 少量から徐々に十分な量まで上げていくことになります。そのため、毎 回受診するたびに薬が増えていくこともあります。 薬が増えるというと副作用を過剰に恐がって自分で減量したり、中止する 人をよく見ますが、中途半端な服薬や自分だけの考えで薬を止めることは 回復を遅らせるだけでなく、かえって、副作用が出やすくなる場合があり ます。心配な場合は担当の医師と相談することをお勧めします。 場合によっては十分な効果が出るまで1-2ヶ月を要することもあります。 それまでは薬を飲み続けてください。 患者さんにとって早く良くなりたいのは当然のことですが、「急がば回れ」 です。 さて、薬が効いて、症状が良くなってくると、当然薬を止めたくなったり、 忘れたりということがありますが、薬はいつまで飲む必要があるのでしょう か? 実は、はっきりした見解があるわけではありません。症状が安定しても、治 療開始後3ヶ月以内では薬を止めると悪化する可能性が大きく、断薬は危険 です。だいたい6ヶ月くらいの服薬が勧められていますが、最近では1年間 の服薬を勧める意見もあります。結局、病状、周囲の環境、患者さんの希望 などを総合して決めることが多いようです。 また、いきなり中止すると、ときに断薬症候群など強い副作用がでることもあ り、徐々に減量して行く必要があります。 実際は、うつ病の患者さんで6ヶ月通院を続ける人は30%程度、1年以上通院 する人は25%弱くらいで多くの患者さんは不十分な期間で治療を中断している のが現状です。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第73号 2013年6月14 日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ ンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かのシ リーズで掲載していく予定です。 ------------------------------------------------------------ うつ病 第22回 うつ病の治療 その8 薬物療法 その5 ------------------------------------------------------------ 抗うつ薬は数十種類もあることを不思議に思った人はいませんか? よく使われている薬だけでも十種類以上はあります。 同じようなうつの症状の人でも、違う薬が出ることに不思議な感 じがした方はいませんか? パニック発作や強迫症状または社会不安症状(人前で話したり、 食べたり、書いたりしようとすると、不安や恐怖を覚えて赤面す る、汗が出る、震えたり口の渇きを覚える症状)。などとうつ症 状の合併が見られるときはSSRIが使われます。 また、不眠が訴えの中心である場合は、眠気の出やすい抗うつ薬 ミルタザピン(リフレックス、レメロン)やミアンセリン(テト ラミド)、トラゾドン(デジレル、レスリン)を寝る前に単剤や 併用で使うことが多くなります。この場合は睡眠導入薬を使わな いか又は減らすことができます。ただ、朝眠気が残りやすい欠点 があり、一人暮らしの会社員の方などには寝過ごす恐れがあるの で使いにくいですね。 一方、患者さんが皆、家でじっくり休養できるわけではありませ ん。重症の人でなければ、仕事や家事を休めない場合が多いでし ょう。すぐに仕事を休めない場合は、昼間眠気がより残りやすい 薬ミアンセリン、ミルタザピンは使いにくいのです。また、本来 あまり勧められませんが、どうしても自動車の運転を必要とする 場合はパロキセチン(パキシル)、セルトラリン(ジェイゾロフ ト)がよいでしょう。 さらに、副作用によっても使い分けることがあります。一般的に、 SSRIは他の抗うつ剤に比べ副作用が少ないと言われていますが、吐 き気などの消化器症状は他の抗うつ剤に比べ出やすくなっています。 多少の頭痛や尿が出にくいことは我慢できるが、吐き気はダメとい う人には適しません。スルピリド(ドグマチール)は食欲亢進作用 や生理不順を起こしやすいため若い女性には長期間使うには注意が 必要です。 この他にも年齢、身体疾患や他の薬との相性なども考えて薬が選ばれます。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460 ___________________________________________________________



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第74号 2013年7月 16日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メン タルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かのシリー ズで掲載していく予定です。 ------------------------------------------------------------- うつ病 第23回 うつ病の治療 その9 薬物療法 その6 ------------------------------------------------------------ 抗うつ薬は効くのか? 今までさんざん抗うつ剤の話をして、抗うつ薬が効くのか?という のは何事?と思われるかも知れません。薬が効くから治療なのでは ないかと。まあ、そのとおりなのですが。 5年くらい前ミルタザピン(リフレックス、レメロン)の臨床試験 を行った際に、日本で初めて薬とプラセボ(要するに偽薬)を比較 した試験が行われました。 うつ病患者についてはこのとき、うつ病 の程度を測るハミルトンうつ病評価尺度17項目版(以降ハミルトン スコアと略、解説は文末に)を比較したところ、投与6週間後にミ ルタザピンとプラセボの間にはわずか3-4点の差しかありませんで した。 支持的精神療法とプラセボだけでハミルトンスコアは9-10点も減少 したのです。症例数が多かったので3-4点差でもミルタザピンは有 意に有効であったという結論になりましたが、それにしても差が少 ない。 また、やはり同じ頃、軽症(ハミルトンスコアで23点以下)のうつ 病では抗うつ薬の効果はプラセボと有意差がないという報告もいく つか出されています。 この結果について色々なことが考えられます。 1.抗うつ剤は(思っているほどには)効かない。 2.「うつ病」は放っておいても(ある程度は)自然に改善する ものもある。 3.現在、DSM-4やICD-10の診断基準で「うつ病」とされているも のは皆同じものなのだろうか。 抗うつ剤の効くうつ病と効かないうつ病があるのではないか? 若い人(20代前半くらいまでの)のうつは一般のうつと同じなの だろうか? 老年期のうつも一般と同じものなのかどうか? 次回はこれらについて考えてみたいと思います。 (注)ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D) うつ病の診断が確定した患者の重症度を測定するための評価尺度、 抑うつ気分、自殺、入眠障害や精神的不安など17項目にそれぞれ 2-4点の得点があり52点満点。得点が大きいほど重症である。21 項目で64点満点のものもある。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460 ___________________________________________________________



=================================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第75号 2013年9 月 5 日発行 =================================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が編集する 精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、心療内科の領域)す るものです。当メールマガジンでは、まず、メンタルヘルス(精神医学)の主 な病気について、それぞれ何回かのシリーズで掲載していく予定です。 ----------------------------------------------------------------- 第75号 うつ病 第24回 うつ病の治療 その10 薬物療法 その7 ----------------------------------------------------------------- では、続きです。 抗うつ薬とプラセボ(偽薬)との差は(有意差はあるが)それほど大き なものではなく、プラセボだけでもうつが良くなる。じゃあ抗うつ薬と いうものは大して効かないのか? いや、そんなことはない。精神科医なら眠れず、食べられず、話せず、 動けずといった重度のうつ病の患者さんが、抗うつ薬を使うことによっ て、劇的に回復したケースを何度も見た経験があるものです。 では、なぜ?? 重症のうつ病にはおおむね抗うつ薬は有効です。それについてはあまり 異論はない。問題は軽度のうつ病です。 前回お話ししたようにハミルトンうつ病評価尺度で23点以下の軽症のう つ病患者は抗うつ剤を使った場合と使わなかった場合との有意差がない といわれています。 その理由として考えられることは、うつ病が軽度の場合、周りの環境を 調整するだけで回復することがよくあるということです。うつ病で精神 科を初診した患者さんの約3分の1は1,2回の受診で終わっています。 もちろん医師との相性が合わず中断した患者さんもいるのでしょうが、 簡単なアドバイスと生活指導(睡眠時間を確保したり、生活のリズムをつ けるなど)を受けることで回復してしまうことが少なからずみられるので す。 次に考えられるのは、DSM-IVやICD-10のうつ病の診断基準の問題です。う つ病の診断に世界共通の基準を決めようという試みだったわけですが、こ の基準を満たすものは、みな同じような経過をたどり、治療も同じかとい うと、そういうわけではありません。 いわゆる「現代型うつ病」は従来のうつ病と同じようにそれらの基準を満 たすものの、経過はかなり違っており、治療も抗うつ薬が効きにくいなど 異なる点が多いといわれています。一見同じうつ病に見えても、違う病気 であるのかも知れません。 また、若年者は本来、感情の変化は大人よりも激しいものです。大人に比 べて、より簡単にうつ症状を出しても不思議はありません。また、薬の効 き方も大人とは違います。 24歳以下の青年に抗うつ薬を使用すると、かえって自殺企図が増加すると いう報告があり、投与にあたっては、リスクとベネフィットを考慮するこ とと添付文書に記載されています。 とくに、7~18歳の「大うつ病性障害患者」(DSM-IVやICD-10のうつ病の 診断基準を満たすもの)ではプラセボと比較して有効性が確認できていま せん。 さらに若年者はうつ病のように見えても、双極性感情障害(躁うつ病)であ ることがしばしばあり、このような場合、抗うつ薬は躁転(うつ状態から一 気に躁状態に変わる)を促すことになり、逆効果になります。 また、老人の場合は認知症の影響も考えなくてはなりません。認知症の 症状がなく、うつ病の診断基準を満たしていた人が、亡くなってから脳内 に認知症に見られる変化がはっきりと存在したという例が報告されていま す。認知症の症状が出る前にうつ病様の症状が出たという可能性がありま す。 この場合も、抗うつ薬だけでは症状の改善は難しいのではないかと思われ ます。 このように症状が同じようであるからという理由で同じ「うつ病」として 統計を取ることが妥当なのかどうか?ということは考えてみる必要はある のではないかと思います。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第76号 2013年10月 19日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ ンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かの シリーズで掲載していく予定です。 少し前まで暑かった気候から、一気に秋らしくなってきました。 急な気候の変化でカゼなどを引かないようにお気をつけください。 ------------------------------------------------------------- 第76号 うつ病 第25回 うつ病の治療 その11 薬物療法 その8 ------------------------------------------------------------- 前回に少々追加します。 もう一つ、詳しいことは後ほどに譲りますが、双極性感情障害(躁う つ病)でうつ状態になっている場合では抗うつ薬が効かない場合があ り、治療抵抗性(抗うつ薬が効きにくい)うつ病の半数以上が実は双 極性感情障害だともいわれています。 双極性の場合、躁状態がはっきりしている場合はわかりやすいのですが、 躁症状がはっきりしないケースやうつ状態で初発したもの、また、2型と いわれる軽い躁状態とうつ状態を繰り返すタイプのものはうつ症状のみ の「単極性うつ病」見分けがつかないことが多く、しばしば、うつ病と して治療され、効果が出ないということが見られるようです。 双極性感情障害のうつ症状には原則的には感情調整薬といわれる抗てん かん薬のバルプロ酸(デパケンなど)、カルバマゼピン(テグレトール など)ラモトリギン(ラミクタール)や抗躁薬の炭酸リチウムが用いられ ます。 これらと抗うつ薬との併用は議論が分かれるところではありますが、抗 うつ薬だけの使用は好ましくないとされています。 次回から抗うつ薬の副作用の話が始まります。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第77号 2013年12月3日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ ンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かのシ リーズで掲載していく予定です。 ------------------------------------------------------------------------------------------ e-メンタルヘルス・マガジン 第77号 うつ病 第26回 うつ病の治療 その12 薬物療法 その9 ------------------------------------------------------------------------------------------ さて、今回は副作用について。 抗うつ薬(別にうつの薬だけではないのですが)には、色々な作用が あります。それはすべてが患者さんにとって都合のいいものばかり ではありません。都合の悪いものもあります。この都合の悪い作用 を副作用と言います。 もちろん、都合のいい作用の方が大きいので薬として認められてい るわけなのですが、副作用は服薬の中止に結びつき、治るはずの病気 が悪くなってしまうことにもつながりますし、確率としてはとても小 さいのですが重い後遺症を残したり、命に関わるようなものもありま す。 では実際にはどのような副作用があるのでしょうか? 1959年に登場したイミプラミン(トフラニール)を最初とする三 環系抗うつ薬の代表的な副作用は唾液の分泌が低下することによる口 渇、胃部不快感、消化不良、便秘、要するに口から腸までの消化管の 症状が出現します。また、かなり個人差はありますが、眠気や立ちく らみ、排尿困難、性機能障害(性欲低下、射精障害など)もよく見られ ます。これら副作用のため、効き目が今ひとつであっても、十分な量 の薬を処方することができないという場合もありました。 そのため、最近では第一選択としてはあまり用いられないようになっ てきました。しかし、抗うつ作用はSSRIやSNRIに勝るとも劣らないも ので副作用が出ない人には大量投与も可能であることから、新しい抗 うつ薬が効きにくい患者さんに対しては用いることがあります。副作 用は強くても、昔から使われているので副作用に対処しやすいことも 因です。 SSRI,SNRIは抗うつ効果は三環系と同程度ですが、副作用は比較的穏や かです。口渇、眠気、性機能障害などはSSRI,SNRIなどでもしばしば見 られますが、その他のものは出現しにくくなっています。そのため三 環系に比べれば飲みやすいものにはなっています。 しかし、SSRI,SNRIの方によく見られる副作用があります。服薬開始後 にしばしば見られる吐き気や胃の不快感です。多くは1-2週間で軽 快しますが、ときに症状が持続することがあります。 また、とくにSSRIやSNRIではアクチベーション・シンドローム(日本語 では賦活症候群と呼ばれています)というものも報告されています。こ れは抗うつ薬によってうつから躁状態に移行したり、イライラ、不安、 焦燥の出現や攻撃性、衝動性の増強、不眠などが現れるもので場合によっ ては自殺企図を生じさせることもあります。 さらに24歳以下の人にはSSRIの投与により自殺念慮が強くなるという 報告がいくつかあり、若年者に対する抗うつ薬(とくにSSRI,SNRIは)慎 重に行うことが必要です。 抗うつ薬にはこの他に、薬を減量したり、中止するときに生ずる離脱症 候群という厄介な問題がありますがこれは次回に。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460 ___________________________________________________________



====================================================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第78号 2013年12月23日発行 ====================================================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が編集する精神医学の現場からの 情報をお届け(精神医学;精神科、心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、 メンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かのシリーズで掲載していく予定で す。 ----------------------------------------------------------------------------------------- e-メンタルヘルス・マガジン 第78号 うつ病 第27回 うつ病の治療 その13 薬物療法 その10 ----------------------------------------------------------------------------------------- さて、前回の続きです。 前回にはお話ししませんでしたが、この他にセロトニン症候群という副作用があります。これは三 環系抗うつ薬にも見られたものですが、セロトニン作用の強いSSRIが抗うつ薬の中で重要な地位を 占めてくるようになって、注目される様になってきました。 どういう症状があるかというと、不安、焦燥、興奮、錯乱、幻覚、反射亢進、ミオクロヌス、発汗、 戦慄、頻脈、振戦等です。また、セロトニン作用薬、たとえば双極性障害(躁うつ病)に使う炭酸リ チウムや片頭痛に使うトリプタン系薬剤(スマトリプタン等)セロトニン前駆物質(L -トリプト ファン、5 -ヒドロキシトリプトファン等)含有製剤又は食品との併用時に発現する可能性が高く なるため、特に注意することと記載されています。 頻度としてはアクチべーションシンドロームよりは少ないとされています。 ☆離脱症候群について これまでに述べてきた副作用は薬を飲んだことによって起こるものだったのですが、この離脱症候群 は薬を減量もしくは止めたことによって起こる副作用という特徴があります。 これは、抗うつ薬(とくにSSRI)を4週間以上続けて服用した後中止もしくは減量した後10日以内に めまい、知覚障害(錯感覚、電気ショック様感覚、耳鳴等)、睡眠障害(悪夢を含む)、不安、焦燥、 興奮、嘔気、振戦、錯乱、発汗、頭痛、下痢等があらわれ、社会的、職業的に大きな問題が生じる場 合をいいます。 症状の多くは軽症から中等症であり、2週間程で軽快しますが、患者さんによっては症状が強く、回 復までに2、3ヵ月以上かかる場合もあります。 これを防ぐには減量をゆっくり行い、万一離脱症候群が出た場合は元の量に戻してさらにゆっくり減 らしていくのが良いとされています。 しかし、抗うつ薬の副作用と「うつ病」の症状は大変見分けにくいものがあります。 それは次回に。 これで今年のメルマガの発行は最後になります。 新年からは現在の「うつ病」シリーズに加え、新シリーズがスタートします。 新シリーズはまず、アルコール依存症の追補として今年新たに発売されたアカンプロサート(商標名は レグテクト)について沖縄協同病院の 小松知己(こまつ ともみ)先生にお願いします。 ご期待下さい。 では、良いお年を! ___________________________________________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第81号 2014年3月6日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ ンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かの シリーズで掲載していく予定です。 ----------------------------------------------------------------------------------------- e-メンタルヘルス・マガジン 第81号 うつ病 第28回 うつ病 の治療 その14 薬物療法 その11 ----------------------------------------------------------------------------------------- お待たせしました。今年最初のうつ病シリーズです。 さあ、ここで復習です。 うつ病のからだの症状にはどんなものがあるでしょうか?思い出し てみましょう。 眠れない、食欲がない、何を食べてもおいしくない。体重が減る。 体がだるい。疲れやすい、疲れが抜けない。性欲の低下、月経不 順。頭痛、発汗過多、動悸、便秘、息苦しさなどの自律神経系の 不調などがあります。 一方、抗うつ薬の副作用を見てみますと、例えばSSRIの場合は特 徴的な副作用である悪心(吐き気)などの胃部症状や眠気が一番 出やすいのですが、次に出やすいのが便秘、頭痛、めまい、射精 障害、鎮静、振戦、排尿困難、発汗、口渇、倦怠感、食欲減退…。 ちょっと見直してみて下さい。うつ症状と抗うつ薬の副作用で同 じものがあるのがお分かりですね。 抗うつ薬というより、向精神薬の副作用のかなりの部分がいわゆ る「自律神経」の調節がうまくいかないことによって起きるもの です。 ところが、うつ病自体の症状としても、自律神経症状というもの があり、時に、この二つの見分けがつかなくなることもあります。 そのため、うつの症状を薬の副作用と思い込み、服薬を止めてし まった患者さんの話や逆に副作用がうつ症状の悪化とされ、薬が 増えて症状が増悪したという話もあるようです。 もちろん、最終的には診断はつくのですが、この間に治療に対す る不安が大きくなると、不安による自律神経症状が取りにくくな り、不快な症状が長期にわたって続くことにもつながってきます。 いずれにしても医師とよく相談することが大切です。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第82号 2014年4月12日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ ンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かのシ リーズで掲載していく予定です。 ---------------------------------------------------------- e-メンタルヘルス・マガジン 第82号 うつ病 第29回 うつ病 の治療 その15 薬物療法 その12 ---------------------------------------------------------- 以前にもお話ししましたが、抗うつ薬とプラセボ(偽薬)との比 較試験が行われています。 抗うつ薬の副作用がチェックされるのは当然のことですが、実は プラセボの「副作用」も調べられています。プラセボですから当 然副作用は出ないはずなのですが、実際にはプラセボの副作用も 報告されています。 中にはうつ病本来の症状でも出現しないと思われるものもあり、 「薬を飲んだ」ということによる心理的な原因によるものとしか いいようがありません。 大変厄介なことに、抗うつ薬の副作用に多く見られる自律神経系 の症状(手指のしびれ、発汗、動悸、頭痛、めまい等)は心理的 なものによって大きく影響を受けます。 とくに緊張したり、副作用を心配したりすればするほど逆にこれら の自律神経の症状は出やすくなる傾向があり、それを副作用だと思 い込むことがあります。 こうなってしまうと、もう、怖くて薬が飲めないといった事態に発 展してしまいます。 このように抗うつ薬の副作用はなかなか簡単には断定できないもの です。 次回からは薬以外の治療法について触れてみます。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460 ___________________________________________________________



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第84号 2014年6月14日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が編集する精神医 学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、心療内科の領域)するものです 。当メールマガジンでは、まず、メンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、 それぞれ何回かのシリーズで掲載していく予定です。 ------------------------------------------------------------------------ e-メンタルヘルス・マガジン 第84号 うつ病 第30回 うつ病 の治療 その16 その他の療法 その1 ----------------------------------------------------------------------- 今回からは薬以外の治療法についてお話しします。 第1回は経頭蓋磁気刺激法(TMS)についてです。 最近、テレビでも取り上げられた経頭蓋磁気刺激法(TMS)はコイルに電量を流 して磁場を作り、それによって生ずる局所電流で脳内の神経細胞を刺激する方 法です。 本来はパーキンソン病や「てんかん」など神経系の検査に使われていましたが、 1990年代からは反復して刺激を加えることが可能となり、パーキンソン病や脳 梗塞などの神経疾患の治療やリハビリテーションに用いられるようになり、2008年 にはアメリカの政府機関FDA(食品医薬品局)で「抗うつ薬の効果がない治療抵 抗性のうつ病の治療」という条件付きですが、うつ病の治療装置として認可され ています。 うつ病では大脳の左背外側前頭前野という部位の機能低下が推定されています。 TMSでは八の字型のコイルを頭部に当てて、この部位を高頻度に反復刺激する方 法が広く行われています。 TMSは脳に侵襲を与えることなしに大脳皮質を刺激し、皮質と連絡のある皮質下の 活動性を変化させることができるとされています。 TMSは国際的な安全基準が示されており、現在の時点では副作用は頭痛、顔面の違 和感などのものが報告されていますが、けいれん発作などの重篤なものは少なく、 後述する電気けいれん療法のように麻酔を必要とせず、認知機能の低下も特に認め られていないというメリットがあると主張されています。 しかし、刺激の方法については統一されたものがなく、現時点では有効性は電気け いれん療法を上回るものではないとされています。まだ、治療法として十分確立 されたものではありません。 日本では一部の医療機関で使われていますが、現在健康保険制度が適応されてはい ません。まだ、抗うつ薬による薬物療法の効果がない場合や副作用が強くて薬の 服用が続けられない場合の治療に有効である可能性があります。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460



========================================================================= e-メンタルヘルス・マガジン 第85号 2014年8月4日発行 ========================================================================= このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が編集する精神医学の現場からの 情報をお届け(精神医学;精神科、心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、 メンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かのシリーズで掲載していく予定です。 --------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- e-メンタルヘルス・マガジン 第85号 うつ病 第31回 うつ病の治療その17 その他の療法 その2 --------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 電気けいれん療法(ECT) 電気けいれん療法とは頭部に少量の電流を流して人工的に全身けいれんを起こすことによって、うつ 症状や幻覚妄想などの症状を急速に改善することが出来る治療法です。 印象からは恐ろしいイメージがあり、健忘や骨折などの問題がときにみられることは事実ですが、実 際には安全性は高く、妊婦や高齢者にも勧められると報告されています。 電気けいれん療法は、当初は主に統合失調症に用いられていましたが、その後、むしろ気分障害(双 極性感情障害(躁うつ病)やうつ病)の治療に有効であるとの報告が海外でされるようになり、とく にうつ病では、薬が効きにくいケース、自殺の危険が迫っていると思われる場合や栄養不良などで迅 速な改善が必要な場合や、妊婦や高齢者で薬が多量に使えないときなどに推奨されています。 この治療法が開発された当初は直接電極を頭部に当てるという方法が用いられていましたが、骨折が 多く発生し、麻酔薬を用いるようになりました。 さらに、欧米では60年前から麻酔薬と筋弛緩薬を併用する「修正型」が実施され、健忘を軽減したり 、けいれんを起きやすくするなどの改善が行われていました。 しかし。日本では体に電気を流すということに関する患者さんや医療側の不安感や恐怖感、嫌悪感を 無視することはできず、また、実施に麻酔科医を必要とするなど、日本で精神科の入院の中心になっ ていた精神科病院では採用が難しく「修正型」はなかなか普及しませんでした。 しかし、1980年代以降、総合病院を中心に「修正型」が広まり、さらに、2002年からパルス波治 療機という、健忘やせん妄などの副作用がより少ない器械が認可され、現在では精神科と麻酔科を持 つ大規模の総合病院で実施するところが増えてきています。 では、実際の手順を「修正型」の場合を例に簡単に説明すると、患者さん本人または保護者の同意の もとに前夜より絶食の上、手術室で麻酔薬、筋弛緩薬の投与を行ったうえで、前頭部ないし側頭部両 側に電極を当て約5秒間通電し、けいれんを誘発します。これを週2-3回、計6-10回程度行い、完全に 回復するか改善が認められなくなった時点で終了とします。 電気けいれん療法は急速に症状の改善を期待することができ、強い自殺念慮がある患者さんについて は大きな効果が期待できます。 しかし、うつ病の場合、改善率は高いものの6-12カ月後には50%は再発、再燃するといわれ、その後の 治療も重要となってきます。 __________________________________________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第86号 2015年 1月13 日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ ンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かの シリーズで掲載していく予定です。 ------------------------------------------------------------ e-メンタルヘルス・マガジン 第86号 うつ病 第32回 うつ病の治療その18 精神療法 その1 ------------------------------------------------------------- 五ヶ月間メルマガが発行できず大変申し訳ありませんでした。職 場で大規模なシステムの変更などがあったので、といっても言い 訳になりますので早速続きを始めたいと思います。 精神療法について さて、今回は「うつ病の精神療法」というテーマです。 精神療法とはなかなか定義が難しいのですが、精神医学の事典によれ ば「精神の不適応を正し、適応を再獲得させていくための方法」となって います。(講談社 精神医学大事典 1984岩井寛)といってもわかりにく いですが、実際に使う場面では、薬物や物理的療法以外の治療法を指 していると考えてあまり問題はないのではないかと思います。 ひとことで精神療法と言ってもその数は数え切れないほどあります。その うち、うつ病の治療によく用いられるものは 支持的精神療法 有効という根拠のあるものは 認知行動療法 対人関係療法 の2つです。 次回からこれらについてお話ししたいと思います。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460 ___________________________________________________________



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第87号 2015年5月3日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ ンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かの シリーズで掲載していく予定です。 みなさん、ご無沙汰しておりました。4ヶ月ぶりのメルマガです。 今年になってから、筆者を巡る環境が大きく変化し今まで以上に 時間がとれなくなりました。 最近は何とか忙しさにも順応し、これからは以前のペースで出し ていきたいと思います。(オオカミ少年と言われそうですが) ------------------------------------------------------------ e-メンタルヘルス・マガジン 第87号 うつ病 第33回 うつ病 の治療その19 精神療法 その2 ------------------------------------------------------------- うつ病の精神療法 1.支持的精神療法 まず、最初は支持的精神療法についてのお話です。支持的精神療法 はすべての精神療法の基本とされる治療法で、基本的には「精神的 危機状況にある患者を支持しながら現実への再適応をはからせるこ と。(片山義郎支持療法。精神医学大事典 講談社 1984)」とい うことを主目的にしています。 精神科領域のほとんどの疾患のほぼすべての病態で有効であり、特 別な技法があるわけではなく、教科書から学ぶと言うよりはその人 の経験に基づいて患者さんとの信頼関係を作ることで患者さんを支 え、援助していく治療法です。 これだけでは何のことかわからない方もいらっしゃるかと思われます が、精神医学について一定の知識を持っている治療者が、それらの知 識や自分の経験、体験などを加え、さらに、患者さんの病歴、症状、 現在の状態などを考えて患者さんとお話(問診)をする。ということ になるでしょうか。 ただ「お話をするだけ?」と言われそうですが、実際には話すことだ けではなく、入室時の表情や歩き方、口調なども判断材料になります。 また、問診の内容は「調子はどうですか?」とか「眠れていますか?」 とか「食欲はありますか?」とか,一見たわいのない話が多く、よく 揶揄されることもあるのですが、これは、ベテランの内科医が聴診や 打診などを組み合わせて診断の見当をつけるのと同じことをしている わけで、大切な診察の一部なのです。 さらに、患者さんと馴染みの関係になると、ちょっとした変化で、病 状の悪化や服薬がちゃんとできているかどうかわかるようになってき ます。 環境の変化も、状況がわかればそれに併せて薬を加減することができ ます。 従来型のうつ病の場合、よく用いられる昔からの支持的精神療法のや り方としては 1. 病気であることを説明する。 2. 必ず「よくなる」病気である。 3. 休息と薬の必要性を理解させる。 4. 重要な決定や決断は回復後に行う 5. 自殺をしないよう約束をさせる 6. 周囲は本人を励まさない,無理に連れ出したりしない などです。しかし、最近はいわゆる「現代型うつ病」などが登場し て必ずしもこのようなやり方が通用しなくなりました。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460 ___________________________________________________________



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第88号 2015年7月15 日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ ンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かの シリーズで掲載していく予定です。 -------------------------------------------------------------- 第87号 うつ病 第34回 うつ病の 治療その20 精神療法 その3 -------------------------------------------------------------- 前回、従来型のうつ病における支持的精神療法のやり方として 1. 病気であることを説明する。 2. 必ず「よくなる」病気である。 3. 休息と薬の必要性を理解させる。 4. 重要な決定や決断は回復後に行う 5. 自殺をしないよう約束をさせる 6. 周囲は本人を励まさない,無理に連れ出したりしない というお話をしました。 これは今日広く普及しており、うつ病治療の基本的なものとなって います。 ただ、うつ病の支持的精神療法は常にこの通りでなければいけない というわけではありません。 うつ症状が強いときに内面の葛藤を語らせることは、患者さんの苦 痛になるだけという考え方が一般的になっています。症状の強いと きは薬物療法が中心になり、少し落ち着いてきてから支持的精神療 法を併用するという訳です。 また、軽いうつ症状が十分治りきらないまま持続したり、何度か軽 い再発を繰り返すようなケースでは休息や休養がかえって学校や会 社に行きづらくすることがありますし、いつまでも「励まさない」 「連れ出さない」事を続けると、復帰への踏ん切りがつかなくなる こともあります。そんなときはむしろ「ちょっと無理をして」行動 する方がうまくいく場合が多いのです。  支持的精神療法は治療者一人一人の考え方も反映されるため、様々 なやりかたがあります。薬物療法と違い、どの方法が一番良いか、 実際に有効かどうかを確かめるのは大変難しい。標準的な方法を決 めることはできても、治療者の個性、経験、患者さんとの相性によ ってかなりの効果の違いが出てしまうため、比較することが容易で はないのです。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第89号 2015年8月7日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ ンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かの シリーズで掲載していく予定です。 ------------------------------------------------------------ 第89号 うつ病 第35回 うつ病の 治療その21 精神療法 その4 ------------------------------------------------------------ さて、今回はうつ病に対して有効ということが報告されている認 知行動療法についてです。 認知行動療法とは何か困ったことにぶつかったときに、本来持って いた心の力を取り戻し、さらに強くすることで困難を乗り越えてい けるような心の力を育てるものです。「現実の受け取り方」や「も のの見方」を認知といいますが、認知に働きかけて、心のストレス を軽くしていく治療法です。ちなみに認知症とは何の関係もありま せん。 認知行動療法では、何かの出来事があった時に瞬間的にうかぶ考え やイメージを「自動思考」といいます。これに動かされて、いろい ろ気持ちが動き、それによって行動してしまうことがあるのですが、 それが客観的に見て不適切である場合があります。 ストレスに対して強い心を育てるために、つらくなったときに頭に 浮かぶ自動思考を現実にそった柔軟なバランスのとれた考えに変え ていき、ストレスを和らげる方法を学んでいきます。 厚生労働省の認知行動療法の患者さん向けの説明からその方法を簡 単に説明します。 1. まずあなたのストレスに気付いて、問題を整理してみましょう 。 2. その問題がどのような状況で起き、その結果どのような感情を 引きおこしているのか調べてみましょう。 3. あなたの考え方(自動思考)があなたの感情や行動にどのよう に影響しているのか調べましょう。 4. あなたの自動思考の特徴的なくせに気付きましょう。 5. 自動思考の内容と現実とのズレに注目して、自由な視点で現実 にそった柔らかいものの見方に変える練習をします。 6. 考え方が変わってきたら問題を解決する方法や人間関係を改善 する方法も練習してみましょう。 原則として30分間の面接を16-20回行います。 認知行動療法は多くの臨床研究によりうつ病と不安障害に対して効果 が高いというエビデンスがあり、とくに中等症以上のうつ病治療に対 して、有効性は認められています。また、そのやり方もネットなどで 広く公開されており、アルコール、薬物などの依存症の治療にも用い られています。 しかし、うつ病に関して認知行動療法を用いることに対しては、認知 の歪みがあったからうつ病になったわけではなく、うつ病になったか ら認知が歪んだとして否定的に見る意見もあります。実際、いわゆる 現代型に対してはともかく、従来型のうつ病が重度である場合は実施が 難しいように思われます。また、この治療法は患者さんとの相性の善 し悪しがあり誰に対しても使えるわけではないように思われます。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460



=========================================================== e-メンタルヘルス・マガジン 第92号 2016年1月10日発行 =========================================================== このメールマガジンは日本総合病院精神医学会(GHP)広報委員会が 編集する精神医学の現場からの情報をお届け(精神医学;精神科、 心療内科の領域)するものです。当メールマガジンでは、まず、メ ンタルヘルス(精神医学)の主な病気について、それぞれ何回かのシ リーズで掲載していく予定です。 あけましておめでとうございます。このメールマガジンも12年目に 入りました。本年もよろしくお願いいたします。 ------------------------------------------------------------ 第92号 うつ病 第36回 うつ病の 治療その22 精神療法 その5 対人関係療法 ------------------------------------------------------------ 対人関係療法 対人関係療法(IPT interpersonal psychotherapy)は認知行動療法 とともにアメリカ精 神医学会の治療ガイドラインでもうつ病に対す る有効な治療法として位置づけられている精神療法です。 対人関係はストレスの一番のもとであり、精神面の状態を左右し ます。とくに、配偶者や恋人、親、親友などその人に何かがあっ たら自分のメンタルにもっとも大きな影響を与える相手を対人関 係療法では「重要な他者」といい、心の健康のために も良好な関 係を保たなければいけないとしています。 対人関係療法では、「重要な他者」との「現在の」関係に焦点を 当てて治療するものです。 既婚者の場合は、ほぼ「重要な他者=配偶者」となります。大変 実践的でわかりやすいものです。また、焦点が絞られているため 短期間でも効果が出やすいという利点があります。 対人関係療法による治療は、「症状に振り回されないようになる ための強力な手段」を生 活の中で試し、対人関係のスキルを高め ていくことを目指します。患者さんのパー ソナリティを変えるこ とを治療目標とはせずに、パーソナリティを理解したうえ で本人 の対人関係のあり方を考えていこうというものです。 対人関係療法のなかで、患者さんは ○「自分の気持ちをよく振り返り、言葉にして伝えてみる」 ○「自分の周りの状況(特に対人関係に関すること)に変化を起こす」 に取り組んでいくことで、スキルを高め、うつ状態で低下した自 尊心を回復していくこ とを目標とします。 その結果、単に病気が治るというだけではなく、その人の生活全 般にとてもよい影響を与え、対人関係にも自信がつくケースが多 いといわれています。 現在、国内でこの治療法を行っているところは、まだ多くはあり ませんが、今後普及し ていくと思われます。 ___________________________________________________________ 【発行】 「総合病院精神医学会」広報委員会 【編集】南 雅之(編集長)船橋北病院 【MAIL】 ghp-pr@mbp.nifty.com 【back number】http://blog.mag2.com/m/log/0000163460 ___________________________________________________________